STAGE 7トンネル効果と猫
壁抜けと重ね合わせ
🎯 ミッション
波動関数の「染み出し」からトンネル効果を理解し、重ね合わせと観測の問題――シュレーディンガーの猫――に踏み込もう。
未達成

ねこ博士
前のステージの井戸は「無限に高い壁」だった。今度は壁を有限の高さにしてみよう。ボールなら、山を越えるエネルギーが足りなければ100%跳ね返される。でも電子のシュレーディンガー方程式を解くと、驚くことが起きるんだ。

うさ美
壁が無限でないなら、境界条件が変わりますね。壁の位置で ψ をゼロにする必要がなくなる……もしかして、ψ が壁の中に入り込むんですか?

ねこ博士
その通り。ψ は壁の中で急速に(指数関数的に)小さくなりながらも、ゼロにはならずに染み込んでいく。壁が十分に薄ければ、反対側にわずかな ψ が生き残る。|ψ|² が確率だったことを思い出してごらん。つまり――エネルギーが足りないのに、壁の向こうで見つかることがあるんだ。これがトンネル効果だよ。
ψ は壁の中で指数関数的に減衰するが、壁が薄ければ反対側に小さく生き残る。その |ψ|² のぶんだけ「壁抜け」が起こる

うさ美
量子の世界の「すり抜け」、実際に起きている現場はあるんですか?

ねこ博士
むしろ身近だらけだよ。太陽が輝けるのは、本来なら反発し合って近づけない原子核どうしがトンネル効果で融合できるから。ウランなどのアルファ崩壊も、原子核の壁からの壁抜け。工学でも、原子1個1個を画像化する走査型トンネル顕微鏡や、スマホのフラッシュメモリの書き込みがトンネル効果を使っているんだ。

ねこ博士
さて、ここで一段深い話をしよう。シュレーディンガー方程式は線形だから、解の足し算もまた解になる。「壁を抜けた ψ」と「跳ね返った ψ」の両方が重なった状態も、正真正銘の1つの状態なんだ。これを「重ね合わせ」と呼ぶ。観測すると、どちらか一方が確率に従って選ばれる。

うさ美
ミクロの世界ならそれで通る気もします。でも、その重ね合わせを大きな世界につないだら、おかしなことになりませんか。たとえば装置の出力で何か大きなものを動かしたら……。

ねこ博士
まさにそこを突いたのが、シュレーディンガー自身の思考実験――有名な「シュレーディンガーの猫」だ。箱の中に猫と、放射性原子1個で作動する毒ガス装置を入れる。原子が「崩壊した/していない」の重ね合わせなら、装置を通じて猫まで「死んでいる且つ生きている」重ね合わせになってしまうのか? 彼はこの理論の奇妙さを批判するためにこの例を出したんだよ。

うさ美
創始者の一人が「こんなのおかしい」と言うための例だったのに、今では量子力学の看板みたいになっているのが皮肉ですね。実際のところ、猫はどうなるんですか?

ねこ博士
現代の理解では、猫のような大きな物体は空気や光と絶えず相互作用していて、重ね合わせは一瞬で壊れてしまう(デコヒーレンスと呼ぶ)。だからマクロの猫の重ね合わせは事実上観測できない。ただ、「観測とは何か」という問いそのものは、今も研究が続く深い問題なんだ。……ねこ博士としては、箱に入れられる前に断固抗議するけれどね。
確認クイズ
Q1. エネルギーが足りない電子でも壁を通り抜けられることがあるのはなぜ?
正解! ψ は壁の中で指数関数的に小さくなるがゼロにはならない。壁の向こうに残った |ψ|² のぶんだけ、電子はそちら側で見つかり得るんだ。
Q2. トンネル効果が実際に働いている例はどれ?
正解! 太陽の核融合、アルファ崩壊、走査型トンネル顕微鏡、フラッシュメモリ――「壁抜け」は自然界でも技術でも現役で働いているんだ。(虹は光の屈折、電子レンジは電磁波による分子の振動だね)
Q3. 「シュレーディンガーの猫」の思考実験が突きつけた問題は?
正解! 原子の重ね合わせが装置を介して猫の生死にまで及ぶなら、常識と衝突する。シュレーディンガー自身は理論の奇妙さへの批判としてこれを提示したんだ。